短編集
□優鬼
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副長に報告するために、先生は着替えてすぐに部屋を後にした。
私もお茶とお酒を持って副長室へと向かった。
副長室に入ると、副長はキセルをくわえ不機嫌そうに座っていた。
沖田先生は静かに目を瞑っていた。
お盆の上に乗っているお酒を見て、副長は苦笑いをしたけど、迷うことなくお茶を取った。
それを見た先生が私を連れて外へ出た。
―土方さんは1人で飲むそうです
いつもより静かに笑って先生は言った。
―さてと、私は野暮用を済ませにいきますか
そう言って歩き出した先生の行く場所は、あそこ。
無念のうちに死んでしまった、あの隊士の家族の元。
最後の言葉を伝えるために。
―私もお供します
とは言えなかった。
先生の背中がそれを拒否しているみたいだったから。
私があの隊士の家族に会いたくなかったから。
あの隊士のお墓には花が絶えることはない。
なんだかんだ言って、みんな優しい。
鬼の頭と言われている局長は涙を流し、あの隊士の死を悔やんだ。
鬼のくせに、隊士が死ぬと自己嫌悪に陥る副長。
感情は無い。そう言っているのに、必ず花を手向けに行く組長。
私たち、新選組隊士は生と死を共有する場所にいる。
京の町の人々は私たちを“鬼”と呼ぶ。
でも、ここにいるみんなを私は“優鬼”だと思う。
明日も私たちは生と死を共有する。
★おわり★
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