短編集

□”桜”それとも”菊”
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どうして総司が出かけたかったのかを、もちろん私は知っている。
総司が早く行きたかったのもわかる。

でも、
でもな、総司。
私は無性に言いたい。

もっと場の空気を読め!!


総司は懐に桜餅を仕舞い込み、気分上々に神谷さんに話しかけている。
それに比べて、神谷さんの表情は煌びやかな京の町に似合わない。




「あの、先生」
半刻も歩いたころだろうか、神谷さんが総司に話しかけた。
「いったい何処に行くんですか?人通りが少なくなってきた気がするんですけど。」
神谷さんの言うとおり、歩けば歩くほど、賑やかさとは程遠い道になっていく。

「あとはこの石段を登るだけですよ」
そう言って総司が足を止めたのは、1000段はありそうな石段の前だった。
登っている人も、降りてくる人も、気にする人もいない、苔の生えた石段。
「…ここをですか」
「えぇ、さぁ行きましょう」
神谷さんは"名の無き兼定"の位置を確認し、石段を登り始めた。
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