リク&企画小説

□夢花
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輝いている日々は長年でも一瞬。
暗闇へと墜ちていく日々は数日でも長年。

そんな錯覚で出来上がっていった思い出の中でも、
あなたを愛した時間は永久に――。







大きく息を吸って、小さく咳を1つ。
溜め息をつくことさえ面倒だ。

「せんせ…」

声がした方へと顔を向けると、今にも泣き出しそうなセイが立っていた。
何も言わずに部屋へ入ろうと足を踏み出す。

久しぶりに見たセイは痩せた気がするが、そんなことを心配するより、少しでも早くセイから離れなくてはと思った。


結核の発症。
それが総司の人生を狂わせた。
発病には気付いていた。
それでも、ただの風邪だと思いたかった。
そんな総司の気持ちをよそに、結核は総司の身体を蝕んでいった。

とうとう結核の悪化により、屯所の1番隅の部屋へと移動せざるおえなくなってしまった。


1番隊隊長として、自分がしなくてはならないこと。
総司は移動する際に考えた。

(他の隊士に移さないこと)

当たり前だが、難しい。
特に―――
(神谷さんには…)

いくら難しいと言っても、不可能ではない。
総司は隊士が来ると、部屋に入り、ドアを閉めて出ないようにした。
今のように。
ドアが閉まるまで、セイが動いた気配はなかった。

こうすれば、いつか忘れてくれると思っていた。
自分のことも、楽しかった2人の思い出も。


「…土方副長が、体調がよかったら副長室まで来てほしいそうです」

「…」

セイと総司の会話は、もう何日も成り立っていなかった。
わかっていました、と無言の訴えを残し、セイは来た道を帰って行った。

胸の辺りが重く感じるのは、病のせいだと思い込む。

「はぁ―…」

見上げた先は、どこまでも広がる空ではなく、限りのある天井だった。







***
寝たつもりなどなかったのに、目を開けると部屋の中は暗く、1人分開いた障子からは月が丸く見える。

「昼間から具合が悪かったのか?」

今の土方は副長ではなく、豊玉のようだ。
句帳を片手に月を見上げている。


総司は昼間の用事をすっかり忘れてしまっていた。
というか、いつの間にか寝てしまっていたので、副長室に行けなかったのだ。

「そういう訳ではないんですよ〜」

言った言葉に力がなく、自分で驚いた。

「おい、大丈夫か?」

大丈夫ですよ。土方さんは本当に心配性ですね。
そういつも通り言うつもりだったが、吸った息は言葉としてではなく、咳として外へ出た。

急いで土方は総司の横たわっていた身体を起こした。
それでも咳は止まらず、背中支えている手はそのままで、ドアの方へと顔を向けた。

――グッ

袖を掴まれ、土方は総司の方へ向いた。
"大丈夫"まるでそう言いたいかのように、総司は頷いた。

この場合呼ばれるのはセイだ。
セイとの接触は避けたい。

(あの子には幸せになってもらいたい)

そう願いながら、総司は咳が止まるのをただ待つしかなかった。
手の中の生暖かい感触を遠くで感じながら。
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