Story

□桜東花様5万打フリー小説
1ページ/9ページ

早く 大人になりたいの
早く あなたに近づきたいの
早く 綺麗な女性って言われたいの


だって あなたに 似合う女に なりたいんだもの



化粧



真っ赤な、ルージュ。
ほんのり、色づくチーク。
キラキラ、光るアイシャドー。
鮮やかな、赤が輝くマニキュア。

机の上に転がった数々のメイク道具。
その前には、そんなものに頼らなくてもいい位の、可愛らしい女の子。
鏡とにらめっこ、しながら、脇に置いた雑誌のように、肌にファンデーションを乗せていく。


「なに、やってんだ?」


不意に掛けられた声に、少女はビクッ、と体を振るわせた。
声の主は、考えなくともすぐ分かる。
この家に住んでいるのは、彼女と、声の男だけ。

「……別に」

顔も見ず、鏡の自分を見たまま、冷たく応えた。
「別に、ねぇ…?じゃあ、その化粧品の山はどうした?」
声の男は、静かに彼女の後ろに立って、マニキュアを手に取った。

鏡に、端整な顔が、映る。

「…返してよ」
「こんだけ買い揃えるのは金かかっただろうが」
鏡越しに、彼を睨む。
そんな視線をさらりと流して、他の化粧品も手に取った。
鏡の前に並んだ化粧品は、メイク下地からアイメイクまで、一通り全てが揃っている。
安っぽいものかと思いきや、有名なメーカー品…今、大物女優がCMしている新作ばかり。
男はため息をついて、眉根を寄せた。
「小遣い全部使い果たしたのか?」
「…歳三さんには、関係ない」
ぷい、と視線を外し、立ち上がり、鏡の中から姿を消す。

ふわり、漂うのは、甘いフレグランス。

「関係なくはねぇだろ。一応お前の保護者だし、担任でもあるんだし」
一呼吸置いて、彼女の腕を取る。
白くて細い腕。
その先にある、細い指先には、マニキュアが華を咲かせている。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ