Story

□折り鶴
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子どもの頃、折り鶴が上手く折れないと言っては泣いた。その度に兄は何度でも一緒に折り鶴を折ってくれた。手先の器用なひとで、兄が折った鶴はぴんとしていてとてもきれいだった。
いつだったか、それを見ていた父が折り鶴なら得意だと言って鶴を折った。私は兄の鶴には敵ううものかと半ば睨むように父の手元を見ていたが、出来上がった折り鶴は驚くほどうつくしかった。
どうしてそんなふうに折れるの、と私は聞いた。悔しかったのだ。けれど父は照れたように口元を綻ばせながら、折り鶴は祈りを込めて折るのだと言った。たいせつな人が幸せであるように、無事であるように、鶴に祈りながら折るとその折り鶴はいのちを持つのだ、と。
折りあがった父の鶴の、凛としたうつくしい姿を私はじっと見ながら、ふうん、と良くわからずに返事をした。

今思えば、父の折った鶴は母に似ていた。


私は文を書いた。
たいせつなあの人に宛てて、さようならの手紙を書いた。そして、一枚の紙を二つに切って作った二羽の折り鶴のうちの一つを、文と一緒に置いた。

「お元気で」

目に溜った涙は溢れないうちに拭ってしまった。悲しみは赤子にきっとよくない。

「ありがとう、ございました


精一杯の笑顔を作った。それなのに拭ったはずの涙は溢れてしまった。

片割れの鶴をそっと懐に入れる。これ以上ないほどに祈りを込めて折ったはずなのに、私の折り鶴はうつくしくも凛としてもいなくて、所々でふやけて歪んで、それは不恰好な出来栄えだった。

こどもが大きくなったとき、正しい鶴の折り方を、私は教えてあげられるだろうか。




祈り鶴
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