L-Kaze
□第5章 与えるもの
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多くを望むつもりはない。
それでも、譲れない望みがある。
どうしてこんなに望んでいるのか。
その答えはもう出ている。
「私って切腹ですよね」
目覚めてすぐ、セイは思ったことを口にした。
ここが副長室で、近くに土方がいると分かっていたから。
「…目、覚めたのか」
土方は筆を置き、静かに振り返った。
「お前は切腹してぇのか」
「なんでそんな事聞くんです?
私が切腹したくないって言ったら、しなくてもいいんですか」
土方は何も言わずにセイを睨みつけた。
「副長が局中法度を守らないなんてあるわけないですよね」
「神谷、それを見ろ」
土方はセイの布団を指差した。
「総司はそれをお前に羽織わせて、ここに帰ってきた。
その行動をどう解釈する?
その羽織に対する気持ちを考えればすぐわかることじゃないか。」
セイの布団の上には総司の浅黄のだんだらが掛かっていた。
それを見た瞬間、涙が頬をつたった。
(死にたくない)
ここ何日も感じることがなかった欲望が湧き上がってくる。
「副長、私、死にたくないです」
土方はセイに背を向け、再び筆を走り出させていた。
「神谷清三郎、お前は局中法度に照らして処分する」
土方の言葉をセイは他人事のように聞いていた。