短編集

□七夕の夜の夢か現か
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「わぁ、きれい…」
ここは新選組屯所、西本願寺の廊下。
隊士にしては、というか、男にしては高い声が遠慮がちに響いた。
この隊士は神谷清三郎、本名を富永セイという。実は女子である。


夜も大分更けているため、屯所内は寝静まっている。
だが今は夏、隊士部屋は蒸し暑く、セイは寝られないでいた。
(外で涼んでくるか)
そう思い、部屋を出た。部屋を出てすぐに空一面に瞬く星星が目に入ってきた。
そのためか、無意識に言葉が漏れてしまっていた。
はっと気づき、口を手で抑えた。
小さい声だったためか、人が起きた気配はない。
(ふー、よかったぁ)
と胸をなで下ろし、再び空に目を向けた。
(今日は七夕だったけ…)
数年前だったなら、父と兄と短冊に願い事を書いて、笹につけていただろう。
だが、その父と兄は長州の浪人に殺されてしまった。
そんなことを考えていると、頬に冷たい物が流れていた。
(バカ清三郎、なに女々しく泣いてるんだ!!)
自分を叱咤したところで涙は止まらない。
「……こんなに天気がいいんだから、織り姫と彦星は会えたんだろうなぁ…。」
ぽつりと呟く。だが、その頬には新たな涙が流れていた。
(…沖田先生……。)
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