novel2
□うましか比べ
1ページ/2ページ
*うましか比べ*
時計の針がやっとのことで一日分をぐるりと回るこの時間。
わたしはキッチンで二つのコーヒーを作って廊下を歩く。
愛しー
愛しー
ワガママな王子に尽くす、いたいけな家政婦は、冷めぬうちにと急ぎ足。
零さぬようにと忍び足。
「一哉くん?入るよー」
規則的なノックをしてから部屋に入る。
「あぁ。適当に置いておいてくれ」
「らじゃー」
返事をして机の端へコップを置くと、ベッドの上へと腰掛け部屋を見渡す。
散らかってはいるけど、案外汚なくはないんだよなぁ。
ぽふっ
ベッドに俯せになると香る、一哉くんの匂い。
「…なにやってんだ馬鹿。」
「バカってなによー」
「フ、馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
「悪いー。」
「……ばぁか。」
「あ、またバ
ちゅ。
「五月蠅い ばーか」
「……馬鹿って言う方がバカなんだからね。」
構うか、んなもん。
そう鼻で軽くあしらわれて、二人分に増えた重さでベッドが軋んだ。
眠気覚ましのつもりで持って着たコーヒー、きっと冷めちゃうから煎れたげるわ。
二人の夜が今から始まる。
fin
next→あとがき