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□アイスクリーム
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右のポケットには家の鍵、左のポケットには小銭。
暖冬とはいえ、真夜中は寒い。
謙信はため息をついて厚めのジャケットを羽織り、マフラーを巻くと靴をはくべく腰を下ろす。
靴紐を結わえ、立ち上がるとふと振り返る。
玄関先にしか明かりはつけていない。
遠く台所あたりで冷蔵庫が唸る以外、物音も明かりもなく家中静まりかえっている。
そんな眠りについたように息を潜めている家の中を見、ため息をまたついて謙信は玄関のドアを開けた。
パタン、ガチャリという音すら淋しく響く。
何かを蹴るようにいらついた足どりで、街頭がほのかに照らす道を歩く。
時間が時間だけに、すれちがう人はいない。
時折車とだけすれちがう。
暗がりの塀の上では猫の目がランプのように光り、じっとこちらを見ている。
その猫も謙信が近づくとひらり暗闇へ消えた。
今夜は静かだ、と白い息を吐きながら謙信は思う。
いつもなら酔っ払いや眠りを忘れた若者で騒がしいのに、今日はやけに町全体がひっそりとしている気がする。
その静けさすら、今の謙信には腹立たしい。
苛立ち紛れに地面を蹴ると、ちりちり、ポケットから声がする。
鍵についた鈴なのか、それとも小銭かはわからない。
そんなこんなで目当てのコンビニまでくると、機械的な挨拶をしてくる店員を無視し、真っ直ぐに酒のコーナーに向かった。
目当てのものを見つけ手にとろうとし、ふと小銭が足りるかなとポケットに手をつっこんだ。
指先に触れたのは、冷たい鈴だった。
間違えた。
慌てて手を出そうとし、しかし思いなおして鈴をそっと握った。
それから、あっさり酒のコーナーに背を向けた。