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□軍神と狐
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 金属のこすれあう、鉄扇をたたむ独特の音に謙信は顔を上げた。
「随分とゆっくりしたご帰還ですね」
 そこには鋭い瞳で謙信をにらみつける、色白の皮肉屋が一人いた。


 凱旋の熱気にざわめく城門から離れ、戦の報告のため主の下へ向かおうとすると。
「……三成か」
 廊下の壁に背中を預け、たたずむ三成に声をかけられた。
「我らの殿は部屋に戻られております」
「……そうか」
 と、三成の前を通過しようとすると。
「……なるほど、それが原因ですか」
「?」
「目が赤かったもので」
 ああ、と謙信は振り返り、自分の体を見た。
「……報告の前に、先に着替えるべきか」
 白い戦装束はあちこち破けてぼろぼろで、胴と左腕には包帯が巻かれており薄く血がにじんでいる。
 普段からいかめしい顔つきをしているが、今は疲れがたまっているためか余計眉間のしわが増えており、顔色も悪いように思う。
 満身創痍、というのはこういうことをいうのだろうな、と三成はその姿を見やり思った。
「かように敗軍の将のような無様な姿で殿の前に出ては、更に目を赤くさせるだけでしょう」
「……」
 敗軍の将のよう、無様。
 三成の容赦ない言葉に謙信は一瞬眉をひそめたが、
「確かに」
 あっさりとそれを認めてうなずいた。
「……包帯と着替えの準備は整っております」
 こちらへ、と三成は謙信の前に立って廊下を歩き始めた。
 謙信は黙ってそれに続く。



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