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□青い波頭
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「……」
手のひらを太陽に掲げ、指の隙間から見える太陽の光をまぶしそうに目を細めて見上げる。
ああ、なんて青くて広い空なのだろう。
雲ひとつなく、ただただ青い色だけが無限に広がり続けているようだ。
潮の匂いと空の匂いを思い切り吸い込んで吐き出す。
「ああ……遠い……」
柔らかな風が頬を撫でて行った。
初夏のある晴れた午後、たった一人城を抜け出して海に来た。
書類整理をしていて、ふと外を見るとあまりにも天気がよくて。
縁側でのんびり寝そべっている犬神が気持ちよさそうで。
微笑ましく思い、頭でも撫でてやろうかと縁側まで来ると空があまりにも青くて。
――――海に行けば、さぞ気持ちよかろうな
そんな考えが頭をよぎり、急いで仕事にひと段落つけると家臣たちの目をすり抜けて犬神を連れて馬で海までやってきた。
何か目的があったわけではない。
ただ、無性に海が見たくなったのだ。
ただ一人、流木に腰掛けて海を見つめる。
ゆらゆらゆれる白い波頭と、寄せて返す懐かしい音。
塩気を含んだ優しい風と海鳥の声。
海に目をやると沖の方では海鳥たちが大きく円を描き、時折海面に舞い降りるのが見える。
小魚の群れでもいるのだろうか。
視界の端では、小さな小屋の近くで猟師たちが網の手入れをしており、時折近くに住んでいるのか子どもたちの笑い声が聞こえる。
たわいない日常。
こうしてそれらを見て、感じているだけで幸せな気持ちになる。
(よい季節になったものだ)
それにしても久々に外の空気を吸った。
最近は執務執務で城から出られず、出るといえば戦が多かったように思う。
ゆっくり領民たちの生活状況を見る暇もなかった。
道すがら少し見てきたが、町もにぎわっているし田畑の作物の発育状況もまずまずで人の顔も明るいものが多かった。
(今年も無事に成長しているだな)
今から秋が楽しみだ、と謙信が考え込んでいると。