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□真似事
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そのころの阿国。
(あ〜〜!!やっぱりあかん!!)
ちらり、と謙信の不思議そうな顔を見て、今度は顔を両手で隠してしまう。
(緊張する!役とはいえ、緊張……はっ!そうや、役なんや!)
それに気がついた途端、何故か妙なところで阿国の女優魂に火がついた。
(ままごととはいえ、これは舞台!そう、舞台なんや!立派に……立派にままごとの母様役を務めな!!)
そう決意すると、阿国は目をつぶったまま思い切って顔を上げて大きく息を吸い込んだ。
そして……
『お前様、今日もお勤めご苦労様でございます』
顔を上げてそっと目を開けた、と思ったら。
そこには優雅な笑みで夫を迎える武家の女主人の顔をした阿国がいた。
『湯浴みをなさいますか?それとも先に夕餉になさいますか?』
小さく首をかしげてたずねる姿も愛らしく、そっと三つ指をついて頭をたれる仕草はほんのりとした色気がある。
「…………ぇ」
急に、完璧な『武家の妻』の演技を始めた阿国に謙信の心臓が驚きと感心で飛び上がる。
「う、む……今帰った」
戸惑いながらもどうにかそう答えた。
『嬉しゅうございます。今日も屋敷はつつがない一日でございましたわ』
その微笑に今度は謙信の顔が赤くなりそうだった。
「……子たちは?」
あわてて咳払いをし、飛び跳ねる心を何とか平常心に戻そうとしてみる。
『まだ部屋で絵など書いておりますわ。呼んで参りましょうか?』
「い、いや、いい。……後で見に行く」
『ええ、そうなさってくださいまし。お前様』
「……姉さま、おままごと始まったの?」
「しいいっ!」
妹の問いに、姉は小さな声で黙るように口に手をあてる。
「お母様の作戦なんだから、邪魔したらだめ」
「さくせん?ってなに?」
「秘密って言ってた」
「秘密ってなに」
「知らなーい」
幼い二人の会話の後ろでは、真剣な真似事が続いている。
『それでお前様?先に何にいたしましょう?』