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□小話格納庫:6
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「姫!」

 かたん、と音がして視界がぐるりと回る。

 気がついたらあっという間に押し倒されていた。


「……何故です」
「……」
「何故逃げるのです、姫」
「それ、は……」
「何故逃げようとするのです、姫」
 肩を掴む指は微かにふるえ、色はますます白い。
「何故話を聞いてくださらない……何故答えてくださらない……何故……」
 肩にあった手が耳のすぐ横に置かれる。
 逃げられない。
「……」
「どうか、姫、答えを……!」
「……う」

 謙信は……阿国に押し倒されていた謙信は。
「違う……」
 やっとのことで声を絞りだした。

「我は姫ではない……!」
 謙信は阿国を睨み付けると、いぶかしげに尋ねる。
「貴様……何者だ?」
 静かに反撃のチャンスを狙い、なるべく話を長引かせようとする。
「いつから女に……この者に取り付いた?」
「……取り付いたのではないよ」
 寂しそうに微笑み、目を細める。
「私は『八千矛神』」
 そして、と阿国の赤い唇が動く。


「……あなたは『奴奈川姫』。私の妻」



 自分の唇をたどる長い指、艶やかな微笑みに、ぞくりと何かが背中を駆け登るのがわかった。




*10/23
一万年と二千年前から愛してる*

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