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□落花
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 はらり。


「?」

 見上げた阿国の視線の先、きらきらと輝きながら何かが落ちて行く。

(これは……)

 落ちていったのは、真紅の羽。
それは鳳凰の羽だとすぐわかった。
 鳳凰の翼から零れ落ちた羽は、見る角度によって七色の光を放っている。

「きれい……」

 それをつかもうと、思わず阿国は空へ手を伸ばす。

 そのとき。

「……そなた……」

「えっ」

 驚いた謙信の声がして、阿国は手を引っ込めて謙信を見た。

 そして息を飲む。


 目の前を、花びらのように炎色の羽根が無数にゆっくりと落ちて行く。

 かすかな光を反射して、それはギヤマンの欠片のように七色の光を放って輝く。

 風のない澄み切った空気の中ゆっくりと、揺れながら落ちて行く羽の向こう。



 謙信は驚いた表情で目を大きく見開き、阿国を見つめていた。

 その瞳は光の中でも更に強い光を放ち、何かを言いかけて言葉を失った唇は小さく開いたまま。

 子どものようにあどけない、不意を突かれた謙信の素の表情。

 それは普段の、軍神と呼ばれる厳しい表情ではない。

 「上杉謙信」という人の表情――――




 羽が落ちるまでのわずかな時間。

 しかしそれは、何分にも何時間にも感じられるほど長い時間。

 二人はただただ見つめ合った。



 ただただ視線を重ね合わせた。





 ふわり、と最後の羽が地面に落ちた。

 コトリと世界のどこかで何かが動く音がして、ゆっくりと時間は動き出す。


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