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□アイスクリーム
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帰宅後。
そっとドアを開け、隙間から中を伺うと。
「……」
暗い部屋の中で、肩を震わせている阿国の後ろ姿が見えた。
一瞬入るのを躊躇い、しかし思いきって足を踏み入れると阿国の震えが止まる。
「……何ですのん」
「……土産だ」
怒った口調で自分を威嚇する阿国の隣に座り、コンビニの袋を彼女の前に置く。
泣いていた阿国が涙を拭いて、のろのろと中身を確認する。
「……アイス?」
見ると阿国の好きなアイスのカップが二つ、スプーンも二本無造作に入っていた。
さっき大喧嘩した謙信が外に出かけたのは知っていた。
(絶対お酒やわ!うちのことなんて放っておいて!)
泣いている自分に見向きもしない謙信に、百年の恋もいっぺんに覚めた、もう終わりだと阿国は絶望していたのだが。
「……いらぬのか」
「……こないな時間にアイスやなんて、乙女の敵どすえ」
「…………」
ちらりと謙信を見ると、少しむっとしたような顔をしている。
「……ならば、二つとも我がもらうぞ」
「……!」
「よいな」
仕方なく謙信は袋を拾いあげ、部屋を出ようとした。
が。
「……いけず!」
ぼすっ。
謙信の背中にクッションの軽い衝撃。
驚いて振り返ると、
「謙信様のいけず!誰も食べへんやなんていうてへんやん!いけずいけず!何でこないなときまでいけずやのん!!いけず!!」
ごん!
阿国にしがみつかれ、よろけてしたたか頭をドアにぶつける。
「う……うわあぁん!!ごめんなさぁい!!」
意地を張ったことなのか、それとも今謙信が頭をぶつけてしまったことなのか。
よくわからない、と痛む頭をさすりながら、呆然と謙信は泣きながらごめんなさいを連発する阿国を見ていたが。
「……わかった」
思わず『よかった』と言いそうになるほど安堵して、謙信は阿国の熱を感じながらその場に座り込む。
「……すまなかった」
ポケットの中で、阿国が鍵につけた鈴がちりりとないた。