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□年下の男の子
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「……これでも苦労してんですよ〜」
 ざわり。
 またため息をついて肩を落とした弥太郎の背中に、寒気が走る。
(こっ、この気配は……!!)


 謙信だ。

 
 いつの間に戻ってきたのやら、謙信が弥太郎と伊勢姫のやりとりをじっと後ろから見つめている……ような気配がする。
(まずい!!と・て・も、まずい!!)
 冷たい汗がじわじわと背中に流れ落ちていくのを弥太郎は感じ、思わず振り返りそうになったが慌ててやめる。
(やめろ振り返るな!!首が飛ぶ!!)
 思わず弥太郎は首を左右に振った。
「?どうなさいました、鬼小島様?」
「い、いや、なんでもないっす……あは、あははは……」
 慌てて乾いた笑いを空に向けて放ち、一体どうやってこの状況から離脱しようかと弥太郎が考え込んでいると……
「伊勢姫様ー!!」
 兼続が木刀を二本抱えて走ってくるのが見えた。
「あら、兼続様!」
 伊勢姫は顔を輝かせて兼続にかけよる。
「この間お忘れになった木刀です」
「ぼ、木刀!?」
「ごめんなさい、持ってきてくださったのですね!本当は取りに行きたかったのだけれど」
「いえいえ、姫にご足労願うなど、謙信公に知られたら……」



「……伊勢姫」



「「!?」」
「景虎様!」
 驚く弥太郎と兼続をよそに、伊勢姫はにこやかに微笑みかける。が、
「どうなさいました?ご気分が優れないご様子……」
「……茶の時間だ。姉上が待っている」
 そういうと、弥太郎と兼続をちらりと見て……

「「!!!!」」
「……」
 伊勢姫を伴ってその場を去っていった。


「「…………」」

 カラン。

 兼続の腕から木刀が一本落ちて、地面の石にあたり乾いた音をたてた。

「……兼続。後で俺たち、呼び出し決定だな」
 ぽむ。
 青い顔をした弥太郎が兼続の肩に手を置く。
「わっ、私たちが一体何をしたというのですかっ!!!」
 真っ青な顔で泣きそうな声で、兼続は弥太郎に尋ねたのだった。
「……いくら鬼だろうと、毘沙門天ににらまれたら終わりってことよ……」
 あっはっはー、ふっはっはー、などと意味不明な笑い声を上げる弥太郎。
「だからどうして、私が何をしたというのですか!!」
「自分の胸に聞け!!っつーか謙信に聞け!!命が惜しくないならな!!」
 兼続の怒鳴り声に負けないほどの大声で、やけっぱちな弥太郎は怒鳴り返したのだった。




「……」
「景虎様?」
「…………」
「……景虎、様?」
「………………」
「景虎様!!」
「っ、ああ」
 ぶつぶつと考え事をしながら、伊勢姫の隣を歩いていた謙信は、珍しい伊勢姫の大声に目を見張り立ち止まる。
「もうそろそろ、嘘はおよしになってくださいませ」
「!」
 びくり。
 肩が大きく震え、驚きに見開かれた双眸に戸惑いの色が浮かぶ。
「……そのようなことだと思いました」
 困った顔をして伊勢姫がため息をつく。
「わ、我はまだ何も……」
「景虎様、目は口ほどにものを言うのですよ」
 そう言うと、口元を押さえて小さくクスリと笑った。
「景虎様のご様子を見ていればわかりますもの」
「……」
 そんなにわかりやすかったのだろうか、と謙信は神妙な顔で立ち尽くしていた。
「……景虎様、何がお気に触ったのかわかりませんが……」
 と、急に伊勢姫の声が低いものになる。
「兼続様や鬼小島様をいじめてはなりません!」
 キッパリと伊勢姫は謙信を見据えてそう言い放った。
「……スミマセン……」
 珍しい伊勢姫のお怒りモードに、謙信は素直に頭を下げる。
 その姿に伊勢姫は視線を緩め、微笑む。その気配に謙信は顔を上げる。
「……ご安心してくださいませ、景虎様」
 二、三歩謙信の前を歩き、伊勢姫はくるりと振り返る。
「兼続様は私にとって、弟のような方。次いじめたら私……すねちゃいますよ♪」
 そういうと、謙信が何かを言う前に
「さあ、一休みしたら兼続様と鍛練しなきゃ」
「……鍛練!?」
「ええ!今日こそ私……ビームを出してみせますわ!」


 その瞬間、謙信は思った。


 やっぱり兼続には一言……いや、3時間ほど言ってきかせねばならない、と。

「きゃー!?か、景虎様!?」


 めまいのあまり、地面にへたりと横座りになった謙信は、伊勢姫に大丈夫といいながら固く決意した。






終わり。

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