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□青い波頭
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「お!犬だ!」
「でかいなー!」
「お姉ちゃんも早くー!」
「ちょっと、あんたたち危ないわよっ」
 明るい声がいくつもして、そちらを見ると何人かの子どもたちがこちらへやってくるのが見えた。
 やんちゃそうな大柄な男の子とちょっと生意気そうな小柄な男の子、それから姉妹らしい黒髪の女の子と茶色の髪の女の子。
 謙信の足元でお座りをしている犬神を見つけたらしい。
「あ、お坊様……こんにちは」
「こんにちはー!」
 深々と頭を下げる姉と、明るい笑顔でぺこりと頭を下げる妹。
 変装、というほどでもないが今謙信は黒と白の僧服を纏い、刀を忍ばせた杖を持ち、笠を被っている。
 一見するとただの僧侶にしか見えない格好。
「……こんにちは。そなたたち、元気がよいな」
 自分を怖がりもせず、屈託なく笑顔で挨拶をしてくる子どもたちを見て謙信にも笑みが浮かんだ。
「うわあ、近くで見るともっとでかいぜ!」
「オスかな?メスかな?」
「尻尾がふわふわ〜」
「お坊様の犬ですか?」
 急に子どもたちに囲まれ、犬神はちょっと驚いたようにきょろきょろと子どもたちの顔を見つめる。
「……ああ」
「触ってもいいかなぁ……」
「えー!大丈夫かな……おっかなそう……」
 不安そうな子どもたちを見て小さく笑った。
「……触ってもかまわぬ。もっとも、ひどいことをすればもちろん怒ってしまうがな」
 謙信の犬神は一見怖そうなオオカミ犬だが、元々そういう性格なのか、それとも謙信の甥や姪の遊び相手をしていたせいか子どもと一緒

に遊んでもらうのが好きである。
「よーし……」
 大柄な男の子が犬神の頭に手を伸ばす。
 なでなで。
 恐る恐る、といった風に頭を撫でてやると犬神は気持ちよさそうに目を細めた。
「かわいい〜!私も私も!」
「俺も〜!」
 子どもたちにかわるがわる頭や背中を撫でてもらい、嬉しそうに尾をぱたぱたと振る。
「……しばらく一緒に遊んで来るか」
 いいの?と犬神が謙信を見上げる。
 それを聞いて子どもたちが謙信の袖を引っ張る。
「えー、お坊様も一緒に遊んで!」
「……え?」
 思っても見ない申し出に一瞬目が点になる。
「……い、いや、しかし……」
「お願い!」
 かわいらしい子どもたちに両手をぐいぐいと引っ張られては、無理に振り払うことはできない。
(……どうしたものか……)
 謙信が困り果てて思案していると。
「?」
 どうします、というように犬神がこちらを見上げた。
(仕方ない、か)
 犬神の顔をしばし見つめ、小さくため息。
「……わかった」
「やったあ!」
 きゃいきゃいと喜ぶ子どもたちの笑顔と手に導かれるように、謙信は重い腰を上げた。

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