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□小話格納庫:4
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 『はつゆめ。』





 夢の中で我は、一人桜を見上げていた。

 桜はほんのかすかな風に揺れ、雪のようにはらはらと舞い落ちている。
 目を閉じ、頬を撫でて行く花びらの感触に春を感じていると。
 謙信、と呼ぶ声がして。
 誰だろうと振り返ると、姉上が微笑んでいた。
 その隣には義兄上と景勝、少し後ろには……今は亡き母上。
 今日はよい日和ね、と母上が桜を見上げ笑う。
 それから自分の足元に視線を向けた。
 母上の足元には幼子が二人いて、我を見上げて笑う。

 「父上」

 幼子は我をそう呼ぶ。
 我は微笑み、足元に駆け寄る幼子をためらうことなく右腕と左腕に抱き上げる。
 幼子は、我の面影と『誰か』の面影を宿して無垢な瞳に我を映す。
 その誰かを我は知っている。

 ああ、そうだ。

 この子らは、我の子なのだ。

 我が守りたい、大切な……何よりも大切な、わが子なのだ。


 そして。
 この子らを育んでくれている、『誰か』は――――


 「あなた」



 また、『誰か』の声がして。
 『誰か』、ではない。その声の主を我は知っている。


 そう、この声は――――

 この声は、間違いなく――――


 振り返れば、そこには愛しい――――


『…………!』


 振り返り


 その名を呼べば


 かの人もまた、微笑み――――





 目が覚めると何故か泣いていた。 
 初夢で泣くとは、相当心に残る夢だったのだろう。
 ずっとこの時が続けばいいと切望する、ひどく幸福な夢だった。
 それゆえに現に目覚めたこの胸はひどく痛む。
 もうつかめない、もう手に入らない。
 心の奥で渇望していた、何かを手に入れた夢……



 ……そういえば、何の夢だった?





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『はつゆめ。』*

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