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□夢見桜
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――――思ひつつ寝れば人の見えつらむ夢と知りせばさめざらましを
小野小町――――
ひらり。
謙信の視界の端で、涙の形をした薄紅色の小さな花びらが舞う。
ひらりひらり、と彼を誘うように一枚。
また一枚彼の目の前を舞い、音もなく落ちていく。
それはどこか越後の冬に降る雪にも似て……
ざあああああ…………っ……
心地よい風が吹き抜け、更に花びらは吹雪のように大柄なその体に降り注ぎ、包みこんでしまう。
――――ああ、桜か……――――
「……」
桜の吹雪がやっと止み、謙信は思い出したように首を横に振った。
桜に見とれて我を忘れていたらしい。
自分らしくもない……
足元に落ちた花びらに目をやり、ため息をつきかけたとき。
「……どうかされましたか……?」
柔らかい女の声がした。
そちらを見ると、桜色の唇に柔らかな笑みを浮かべた女が一人、いた。
何時の間にいたのだろう。
まるで気配を感じられなかった。
「先ほどから、考え込まれている様子でしたから」
声をかけられなかったのだ、と女は言う。