MAIN@

□合縁奇縁
1ページ/2ページ


それは、川中島で初めて出会ったときのこと。



『戦場に女は不要。早々に去るがいい』



「……って、あの時言わはりましたけど、うちってそんな弱いどすか?」
そんな出会いから、はや幾月経ったある日のこと。
最初の出会いを思い出し、阿国は本を読んでいる謙信に聞いてみた。
「……強い弱いの問題ではない」
ぺらり。
ページがめくられる。
「女やからあかんのどすか?」
よしよし、と阿国はのんびり寝そべっている銀色の毛並みをした狼犬の頭を撫でてやる。
一見すると普通の狼犬だが、実は謙信の式神<犬神>である。
「……そうだ」
ぺらり。
一枚ページがめくられる。
「せやかて、戦場に出てはる女の子はたくさんいはりますえ?その子らはええんどすか?」
濃姫はんとか、お市ちゃんとか、稲姫ちゃんとか、武田のお嬢ちゃん(くのいち)とか、と名前を上げていく。
本に視線を集中させて、一向に自分を見ようとしない謙信に不満を覚えつつたずねる。
「…………なるべくやめてほしいとは思っている」
「せやったら、うちにだけ言わんでほしいわぁ」
ぷー、と頬を膨らませて文句を言うが、相変わらずの素っ気無い態度は変わらない。
「……一番危なっかしいし」
ぺらり。
またページがめくられる。
「……それに万が一顔に傷でもついたらどうする」
そういい、手元も見ないでそばに置いた茶碗に手を伸ばす。
「……嫁の貰い手がなくなろうが」
「…………」
(そんなん言わはるんやったら、最初から謙信様がもろうてくれたら……ええのに)
それを聞いて、しばらく不満そうにさびしそうに阿国は犬神の頭を撫でてやっていたが、
「!」
何かを思いついたらしく、ぱっと顔を明るくさせた。
「じゃあ、もしうちの貰い手なくなったら、謙信様がもらってくれます?」
「っ!?」

ぶっ!

思わず飲みかけのお茶を噴出しそうになった謙信であった。





「ねえねえ、もらってくれます?」
「〜〜〜〜っ」
「ねえってば!」
顔を赤くして明後日の方向を向く謙信に、阿国は楽しそうに問いかけるのであった。



――――本当はただ「心配だからダメ」、って言いたいだけなんです





終わり
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ