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□二律背反
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「ああ、もう謙信様のわからずや!!」

喧嘩の果てに、そう叫んで飛び出した。



……どうしてわかってくれないんだろう。








『二律背反』








誰もいない街道を、阿国は傘をさして歩いていた。

雨が降っているわけではない。

今日も大変いいお天気で、お日様はポカポカと暖かいし、空にはモコモコの白い雲。

道ばたには、かわいらしい野の花が咲いている。

いつもなら、それを見ながらのんびりと歩いていくのに、今日の阿国はちょっと様子が違う。

「無口、無愛想、無自覚」

足取りは怒っているために荒々しく、口調も人を責めるように厳しい。

「冷徹、傲慢、怒りんぼう」


愛らしい眉はひそめられ、口は見事に「への字」になっている。

「酒飲み、短気、わからずや」

くるくると楽しそうに傘はまわっているのに、阿国の表情は冴えない。

「あーあ、何であんな人好きになったんやろなぁ」

周りに人がいないことをいいことに、大きくため息をついて大きな声でつぶやいた。

「何であんな人……」

ふと踏み出した足に違和感を感じて、慌てて足を戻す。

なんだろうと下を見ると、ちょうど咲いていた花の上に足を置きそうになっていたことに気がついた。

それを見てにっこり笑うと、心地よい風がそっと頬をなでていった。

「……頑固で鈍感で甲斐性なし。せやけど……」




せやけど。




本当は、優しいところもたくさんあるし照れ屋なところもあるし。

短気で怒りっぽいのは、本人にも自覚があって直そうと努力しているし。

それに……

阿国は小さくため息をついた。

「……せやけど、それでも好きなときは、どないしたらええんやろ……」

悪いところを見つけようとすればするほど、いいところもついつい見つけてしまう。



「……そんだけ好き、ってこと……?」



両手で自分の頬に触れ、困ったように首をかしげる。

じわりじわり、と熱を持つ頬に恥ずかしさがこみ上げる。

(ああ、何を言うてもやっぱり好きなんやなぁ)

先ほど喧嘩して飛び出して、嫌いになったとばかり思っていたのに。

「……帰ろ」

やっぱりもう一度話しあおう、と振り返ると、遠くから謙信の愛馬がやってくるのが見えた。

その姿を見て、ぱっと顔を輝かせる。

つい走り出しそうになり、しかしすぐに立ち止まる。

(やっぱり、迎えに来てもらお)

こちらを見つけたのか、速度を上げてこちらへやってくる馬を阿国は笑顔で待つことにした。









終わり

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