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□落花
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 目の前を、花びらのように炎色の羽根が無数にゆっくりと落ちて行く。

 かすかな光を反射してそれはギヤマンの欠片のように様々な光を放って輝く。

 風のない澄み切った空気の中ゆっくりと、揺られながら落ちて行く羽の向こう。



 あの人がいる。







 その森にいたのは、偶然だった。

 勧進のため越後のあちこちを回っていて、ついでだからと春日山に寄ろうとしたのだ。

 しかし道に迷い森の中に迷い込んでしまった。

 何とか日暮れまでに開けた場所へ出たい。

 たった一人で不安と戦いながら道を急いでいたとき。

「あっ……」

 薄暗い道の先に見えてきたのは、明るい場所。

 もしかしたら、人の住んでいる場所かもしれない。

 もしかしたら、街道に出られるのかもしれない。

 そんな期待を胸に、光の中へ足を踏み入れて……



 見たものは、あの人の横顔。

 森の中の開けた野原の中。

 太陽の優しい光を浴びながら謙信は一人で立っていた。




「謙信様……!」

 見知った姿を見つけ、阿国はほっと安心して嬉しくなり駆け寄ろうとし……

 立ち止まる。



 謙信は何か集中しているように瞳を閉じていた。

 口は何かの呪文を唱えているのか、小さく動いている。

 唱え終わるとスッと静かに引き締まった腕を空中へ伸ばし、最後の言葉を静かにつむいだ。



 鳳凰よ



 声は聞こえない。しかし、薄い唇は確かにそうつむいでいた。

「っ!」

 ゴオオオオオオオッッッ!!

 その瞬間、空気が振るえ謙信の腕の上空に炎の渦が現れた。

 炎は謙信の顔を体を赤く染め、その腕に噛み付いた……ように見えた。

 腕に噛み付いたはずの炎は再び渦になりながらだんだん小さくなり、やがてその炎が消えたところから現れたのは真紅の鳥。

 鋭い黄色のくちばしに炎のようなとさか。

 宝珠のように美しい瞳。

 羽すらも小さな炎を纏っているかのように紅で、孔雀のように美しく彩られた三本に別れた鎖のような長い尾を持っている。

 それは謙信の式神、鳳凰であった。

 謙信は穏やかな瞳で鳳凰が止まっている腕を自分の前に持ってくると、二言三言鳳凰に話しかける。

 腕は火傷一つ負っておらず、鳳凰を見つめる瞳は何よりも優しい。

 そして謙信は、鷹狩りの鷹を放つようにゆっくりと腕を上へとふり上げる。

 鳳凰は謙信の上空でパッと真紅の翼を広げ、木々の隙間を縫うようにしながらも空へと飛び立つ。

 謙信はそれを満足そうに目を細めながら見つめ、微笑む。

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