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□賤ヶ岳が変。
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 近江・賤ヶ岳。

 そこは琵琶湖の北部に位置し、京から越前へと向かう街道が通っている交通の要所である。

 いつもは旅人や商人たちがにぎやかに行きかい、活気に溢れているのだが今日は少し様子が違う。

「あー、いい天気だなあ」

 丘の上で弥太郎は大きく背伸びをした。優しい風がそっと草を、弥太郎の頬を撫でていく。

 木々のあちらこちらからは愛らしい小鳥のさえずりが聞こえ、色とりどりの花々が風に揺れる。

「あっきれるくらい、いい天気だよなー」

 首をぐるぐるとまわすと、弥太郎は隣にいる謙信に言った。

「なあ謙信、お前だってそう思うだろ?」

「……」

 しかし、返事は無い。

「ったく……」

(どうすんだよおおおお……しっかりしてくれよおお)

 ガシガシと弥太郎は困り顔で頭をかく。

 ため息混じりに弥太郎は、眼下に広がる戦場を見つめた。



 その頃、賤ヶ岳城の近くの砦。

 織田と浅井の兵士たちが取り囲む真ん中で、何だか珍しい三人組がにらみ合っていた。

「とうとう追い詰めたわよ」

「……えらいこっちゃやわぁ」

 周囲を兵士に取り囲まれ、阿国は困った顔をする。

「ふふふ……お望みどおり、いじめてあげるわ……」

 濃姫が暗器を構え、妖艶な舌でぺろりと刃をなめた。

「これも運命です……覚悟してください!」

 その隣では、いつになく怒りの感情を露にさせたお市が、剣玉を構えている。

「ああん、何やまた戦に巻き込まれてもうた……」

 阿国は自分をにらみつけるお市を見てため息をついたが、

「せやけど……せやけど、うちかて負けまへんえ!!」

 こうなれば二人まとめて倒すまで、と舞傘を構えた。

 そのとき。

「待ちなさい!!」

 凛とした声がその場に響く。

「だっ、誰!?」

 きょろきょろと辺りを見回す人々を見て、誰かが勢いよく砦の影から飛び出した。

「突然、ごめんなさいね」

 すまなさそうな顔と声ではあるが、その瞳はどこか楽しそうに笑っている。

「私は上杉謙信の姉、綾」

 動きやすいよう袴とタスキがけした小袖に身を包み、綾は手にした大降りの薙刀を構える。

「これより上杉軍は、出雲の阿国殿に味方しますわ」

「「「え?」」」

 あっけに取られる濃姫とお市、そして阿国。

「じゃ、行くわよ!」

 そう叫ぶと、綾は濃姫たちに向かっていった。


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