A

□霜月ばかり
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『謙信様は……そうやなぁ、色で例えるなら白やろうなぁ』

 どこか楽しそうな声。



『だって、純粋できれいだから』







 ある日の昼下がり。
「白って、汚れが目立つのよね」
 ずいいっ。
 突然執務室に現れた綾は、机に向かい仕事をしていた謙信に顔を近づけて言った。
「……姉上?」
 いきなり現れたことといきなりの台詞の両方に対して疑問を投げかける。
「だからススメにきたの」
「……何を」
「あなた、戦装束思い切って全身藍色にしちゃいなさい!!」
 汚れは目立たないし洗うの楽になるし!と綾は叫ぶが、
「……断る」
 ため息を一つついて、謙信ははっきりと言い放った。



 戦装束を白と決めているのにはわけがある。
 それはいつ戦場で死んでもいいように、という死に装束としての白でもあり、清廉潔白でありたいという希望を表した白でもある。もちろん、白が好きだからという理由もある。他の色ももちろん好きだけど。

(……かつて、我を白い色のようだと言った人がいたな)
 ぼんやりと謙信は思った。
 そう、彼女の前にも確かに一人、そう言ってくれた人がいた。
『景虎様はお強くて、お優しくて……真っ直ぐで。まるで青空の下に映える白い色のような方なのですね』
 見たことはないけれど、きっと越後の雪はあなたのように真っ白で美しいのでしょうね。
 彼女はそう微笑んだ。

 遠い昔の話。

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