A

□龍のあぎと
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 ――その喉元に喰らいつく前に




 ぱしん。

 軽い音がして、謙信の両手が吸い付くように白い阿国の頬をはさむように包み込んだ。
 驚いたように見上げる見開かれた阿国の瞳と見下ろす謙信の瞳が交差する。
「……」
 一瞬困ったように目を細め、薄い謙信の唇が何か言いたげに開かれやがて閉じられる。
「……けっ……けん――」
 目をぱちくりさせて、身を固めている阿国の耳に
「……うるさい」
 聞こえてきたのは甘いささやきでもなんでもなかった。



「……弥太郎、そこにいるのはわかっておるぞ」
 阿国から視線だけを横にずらし、障子の陰に声をかける。
「……出て来い」
「へいへい」
 ため息と同時に弥太郎がひょっこり、と障子の影から顔を出した。
「!?」
 弥太郎の存在を認めて、阿国の顔が見る間に赤くなる。
「……書類はできておるぞ」
 顔の形をなぞるように謙信の手がするりと阿国の頬から離れた。
 それから脇息の傍らにおいてあった書類に手を伸ばすと、弥太郎のほうに差し出した。
「そりゃドーモ」
 何故か背を丸くさせ、手刀で空中を拝むようにきりつつ弥太郎は部屋の中に入って来た。
「はいはい、ごめんなさいよぉ」
 うやうやしいそぶりで書類を受け取ると、そのまま背を丸めたままこそこそと部屋から出て行った。
「……は〜……やれや」
 書類を受け取り、そそくさと部屋を後にしようと廊下を歩く弥太郎の後ろで、



『阿呆おおおおおおおおお!!!』



「!?なっ、何事っ!?」
 先ほどよりも派手な音が響き渡った。







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