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□夢見桜
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「……そうか」

「ええ」

 謙信は体ごと女に向き直った。

「――――……考えていた。越後のこと、宿敵のこと、そして……己のこと……」

 母でもなく姉でもなく、知っている女ではない。

 しかし……その口元や目元は、どこかで見覚えがあった。

 ただ、それはもう、自分のそばにいない人のもの。



 ――――あの人を大人っぽくしたら、こんな風になるのかもしれない――――



 ぼんやりと考えながら、気がつけば謙信は今まで誰にも語らなかった心の内を全て吐き出していた。

 菩薩のような慈愛に満ちた瞳で、女はじっと謙信の話を聞いていた。

「……全て、夢なのかもしれませんよ……?」

 やがて話を聞き終えた女は、満開の桜を見上げそう呟いた。

「……夢、か……」

 謙信もつられて上を見上げた。

 満開の桜が彼の体にも女の体にも、無数に降り注ぐ。
 
「……夢……幻……」

 そっと、女は舞扇を手に桜の中で舞いはじめた。

「――――昨日は今日の古」

 ゆうらり、と蝶の羽ばたきのように扇が動く。

 その扇に描かれた模様もまた、見事な桜吹雪であった。

「――――今日は明日の昔と申しますから……」

「……」

 謙信はただただ、女の舞を見ていた。

 見事なほど美しく、神々しく、そして……艶やかだった。

「……それでは」

 謙信は桜吹雪の向こうにいる女に声をかける。
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