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□岩に立つ矢もある習い
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 二人がステージの最前列にたどり着いたまさにそのとき。

 ステージ奥のカーテンがシュルシュルと引き上げられ、真っ白なスモークが噴出しました。
 そのスモークの向こう側には、二人並んだシルエットが見えます。
 やがて二人はゆっくりステージの真ん中へと歩みを進めていきました。

 王子は雪のように白いタキシード姿。腰には剣をさしており、白いネクタイに胸にさした赤い薔薇がよく映えています。
 阿国はというと、シンプルながらも清楚な赤と白の巫女服姿です。少し恥ずかしげに視線を伏せているのが悩ましく見えます。
 二人は腕を組み、恋人同時のように親しげな様子で人々の前に姿を現しました。

「王子……なんとご立派なお姿!」
「ああ、ギン千代王子!!」
 周囲の人々から感嘆のため息がこぼれます。
「皆の者。今宵はよくぞ私のために集まってくれた」
 ステージの真ん中までやってくると、ギン千代王子はぐるりと集まった人々を見渡して言いました。
「このギン千代、深く感謝する」
 凛としたよく通る声でそう挨拶を述べると、ギン千代は何事かを傍らの阿国に話しかけました。
 すると、阿国はやっと顔を上げてギン千代に微笑みかけます。
「王子が選んだのはあのお方か!」
「見たか、あの巫女姫の麗しいこと!!」
 その微笑みに、さらに周囲の人々から感激の言葉が聞こえてきます。
「さて、今宵は私の婚約者を皆に紹介したいと思う。……彼女が私の婚約者・阿国だ」
 阿国はスッとギン千代から腕をはずすと、深々と人々に向かって頭を下げました。
「彼女もまた今宵の舞踏会に参加していた一人……今まで事情があって深い森の奥で巫女として暮らしてきた、清らかな女性だ。私の妻にはそんな女性がふさわしいと、ずっと思い捜してきたのだ」
「阿国、と申します」
 再び阿国は頭を下げました。
「私は今ここで宣言する!」
 ギン千代は一際大きい声で叫びました。
「私は彼女を妻とし、この国のため尽力することを!そして、二度と魔物に蹂躙されることなく皆が安泰して暮らせる国とすることを!」

 わあああああああっ!!!

 人々から歓声が巻き起こり、ギン千代は満足そうな笑みを浮かべそれを見ていました。
 傍らの阿国もほっとしたようにギン千代を見上げて幸せそうに微笑んでいます。


「……何とかうまくいったようですね。反対する人もいないようです」
「…………」
「?三成殿?」
 ほっとしたような笑顔の幸村とは反対に、三成はまるで親の敵を見るようにギン千代王子をにらみつけています。
「み、三成ど……」


「立花!!!」


 その声と同時に、幸村が止める間もなくひらりと三成がステージに上りました。

「なっ……!」
 今までお祝いムード一色だった会場が、一気に静まり返ります。
 三成はドレスについたほこりを軽く払うと、
「立花……貴様、一体どういうつもりだ!?」
 たじろぐギン千代と、驚いて固まっている阿国をにらみつけ、そう言いました。
「み、三成……あのね」
「おねね様は黙っていてください!!」
 後ろで何か言いかけたねねにそう言い放つと、
「これは、俺と立花の問題です」
 三成は再びギン千代をにらみつけました。
「立花。貴様、一体どういうことなんだ?貴様がこの国の王子などと、そんな話を俺は聞いていない」
「……三成。これには事情があるのだ」
 ギン千代は軽くため息をつき、つとめて冷静に言いました。
 しかし、そんな態度が余計三成の神経を逆なでしたようで、
「事情?はん、どんなたいそうな事情だろうな?」
「み、三成殿……ここはどうか……」
「幸村!!お前は黙ってろ!!」
 なだめようとした幸村を一喝すると再び二人をにらみつけました。
「三成……今は語るべきときではない。時期がくれば必ず……!」
「友に語る言葉も持たんか。そうだろうな。俺たちがお前が約束の時間に来ないことを心配している間、お前は俺たちの妹をたぶらかしていたのだ。そんな奴に語るべき言葉などあるわけがない」
「…………」
 ぐっ、と強くギン千代は拳を強く握り締めました。
(ど、どないしよう……)
 二人の様子を交互に見やり、阿国はオロオロとしています。
(こないなはずやなかったのに……!)
 ギン千代と自分の婚約発表はお芝居のはず。それは三成たちも知っているはずなのです。
 それなのに、この嫌な沈黙は何なのでしょう。
 他の客人たちもじっと息を潜め、二人のやり取りの行方を見守っているようです。
「…………そうか、わかった」
 何も言わないギン千代に三成は瞳に冷たい光を漂わせ、


「今まで生きてきた中で最も不愉快だ」

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