A

□小話格納庫:5
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 それはどうしようもないことなんだ、と謙信は思う。


「勘と物覚えはよい方……だな」
 毎日の政務や戦の準備に混じり、自己鍛練と政の勉強も欠かさずしている。
 まだまだ一人前の国主とはいえないが、よく頑張っていると思う。
「女としても、十分魅力的ではある」
 その美貌と舞の見事さは他国にも知られている。
「とはいえ」
 そう、とはいえだ。
「……そろそろ、我を追い掛けるのはやめてくれないだろうか」
 謙信はため息をついた。


 阿国のことは嫌いではない。
 寧ろ……好き?
 うん、そうだろう。
 でなければ誰も誰かに仕えようとはしないだろう。

 それはいいとして、問題は彼女と自分の間には深ぁい深ぁい溝というものがあって。
 それを自分は理解してるんだけども、彼女はどうやらわかってない、ということである。
(……主命で結婚しろとか言われたらどうしよう)
 目の前の書類を見つめ、頬杖をつく。
「……どれも主好みだと思うのだが」
 目の前には、阿国宛ての見合いの申し込み書状が山積みになっていた。


 自分を追い掛けるなんて、幻みたいなものなんだと早く気付いてくれないものか。



*7/6
Tune*

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