A

□近江野の娘
2ページ/2ページ


「おお!」
 少し感動した長政が石が消えたあたりを見つめていると、
「ちょっと自信あるんだ〜」
 少し得意げに彼女は両手を腰に当てて消えていく波紋を眺めていた。
「よくお兄様と川まで遊びに行ってたもん」
「へえ……」
「でも久しぶりだからあんまり飛ばなかったみたい。残念」
 ふと彼女を見上げた長政と、長政を見下ろした彼女の目があう。
「長政様は?」
「え?」
「やったことある?こういう遊び」
 笑みを浮かべ、かわいらしく首をかしげる。
「某は……」
 ひょい、と困ったように長政は肩をすくめて笑った。
「残念ながら……」
「そっか」
 がっかりさせるだろうかと思ったが、彼女は軽く頷いただけだった。
「じゃあ……今度は一緒にしようね、長政様。あたしが教えてあげるから」
「……え?」
 そう言うと驚く長政を置いて、彼女はクスクス笑いながら森を抜ける道を駆け出していった。
 短い着物から伸びる素足は健康な若い鹿のようにすらりとして伸びやかで、跳ねるような足取りであった。
 置いてけぼりの長政は立ち上がろうとした中途半端な姿勢(いわゆる陸上の駆け出す直前のような)で
「……誰?」
 不意に呼ばれた名前に驚き固まっていた。



「……市。遅かった、な」
 『織田と浅井の婚姻を進める会』との懇談を終えた信長の下へ、市が戻ってきた。
「ごめんなさ〜い、お兄様!道に迷っちゃった〜」
 頭をかきかき、かけよってくる妹に
「……ふむ」
 信長は一瞥をくれただけで横を通り抜け歩き出した。
「……長政はいた、か?」
 長政は未だ市を迎えることに悩んでいた。
 その長政に一度会いたいと市は思っており、今回信長にひっついて近江までやってきたのである。
 そして、長政がよくいる場所を聞いて市は出かけていったのであるが。
「うん」
 と、兄に答えてしばし市は考え、
「たぶん」
 あいまいな笑顔でそう言った。
「……たぶん?」
 どういう意味だ、と顔をしかめる信長とは逆に市は
(あの様子じゃあ剣玉もやったことなさそうだし……うん、市が教えてあーげよっと)
 未来の旦那様に、どうやったら自分の好きなものを伝えられるだろうかとあれこれ考えていた。


*****

 4700、ありがとうございます。
 大変遅くなりましたが、辛子蓮根様よりいただいておりました長市(市は無双1の方)でございます。
 結婚前にちょっと出会っていた二人を考えてみました。
 こんなんいかがでしょうか?

 辛子蓮根様だけお持ち帰り可です。
 ではお目よごし失礼いたしました(平伏)

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ