擬人怪獣シリーズ

□「禁断の書物」番外戦 エピソード・オブ・バラン〜地球に神が降りた日〜
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ーー・・・全ては、神の悪戯か・・・?



「私」は小さく呟いてみる。
眼前に広がる、神が創ったこの世界の蒼く美しい海を眺めながら・・・










S.D.30 怪獣界・怪獣島。
島の裏側、北部の岩礁地帯の一際高く、長く海へ突き出た崖。
その先端、あと一歩でも踏み出せば断崖絶壁に叩き付く荒波へ落ちて行ってしまう程の所に、一人の男が立っていた。
黒と灰の色をした小袖・袴姿の古風な衣装、風に流れる薄茶色の長いポニーテール、まるで目の前ばかり見ているようで見ていない、虚無感漂う目と表情をしたその男の名は、バラン。
自分が何時何処で生まれたのかも分からず、約400年前に怪獣島に現れた事以外は誰も知らないし、自身も興味は無い。
誰とも接する事も、興味を示す事も無く、ただ毎日この崖からずっと海を見ているだけ。
自分を含めた全てに不満足を抱いているような彼に近寄る者はいつしか無くなり、彼もまたそれを望んでいるようだった・・・



???「あら、こんにちは。今日もやはり、ここにいらしていたのですね。」



・・・彼女のような、ほんの一握りの例外を除いて。
何処かエスニックな儀式服を着た、長い銀髪と蒼眼が目を惹く麗しいこの女性の名はリエラ。
怪獣界守護王たる「神の一族」の英雄、キング・ラゴス・ゴジラの妻であり、二児の母でもある彼女はその分け隔てなき優しさから孤立したバランの事も放ってはおけず、キングがいた頃は夫と共に時間を作ってはバランに会いに行っていた。
バランもまた彼女とキング、それからアッシリ湖の管理者であるビオランテには多少心を開いており、交流を持っていた。
数十年前にキングが失踪した後も、リエラはこうして会える時はバランに会いに行っている。



バラン「・・・お前か。」
リエラ「はい。今日も来ましたよ。」
バラン「物好きな奴め。」
リエラ「何を言っても、私はお節介を止める気はありませんよ。昨日はゴジラとスーが行ったみたいですが、本当にご迷惑はおかけしませんでしたか?」
バラン「存在が迷惑だ。弟の方がわざわざ崖に落ちよって、我の手を煩わせた。」
リエラ「やはりそうですか・・・!ありがとうございます!もう危ない事はしないように言って聞かせましたが、貴方がいなければゴジラはどうなっていたか・・・!」
バラン「ならもうここに来るなと言っておけ。それが確実だ。」
リエラ「そうかもしれませんが、それはきっと無理な相談ですね・・・何せ、私とキングさんの子供ですから。」
バラン「・・・」
リエラ「・・・今日も、自分の存在意義について考えていたのですか?」
バラン「・・・なら、どうした?」
リエラ「いえ、この怪獣界にいて答えが出ないなら、いっそ地球に行ってみては如何かと思いまして。」
バラン「地球?人間の世界に行けと言うのか?」
リエラ「はい。みんな人間なんて・・・と言いますが、人間は悪いだけの存在ではないと思います。だからキングさんも地球への道を作ったのですから。」
バラン「馬鹿馬鹿しい。人間は最も愚かな生物、興味すら湧かぬ。」
リエラ「自分で見てもいないのに、何故そう言えるのでしょう?思い込みで決めつける事の方が、私は愚かだと思います。私達怪獣が逆に人間から危険で野蛮だと思い込まれたら、嫌でしょう?」
バラン「・・・」
リエラ「みんなきっと、何処かで自分は本当は何者なのかを探しています。私も・・・だからこそ、広いこの世界を・・・神がお作りになったこの無限の箱庭をその目で見ないといけないと、私は思うのです。私もいつかは、ゴジラとスーを地球に行かせてみるつもりですし。」
バラン「・・・」
リエラ「ですから、貴方も・・・」
バラン「・・・分かった、行ってみてやろう。」
リエラ「ほ、本当ですか!?ありがとうございます・・・!」
バラン「少し覗くだけだ、喜ぶ程でもない。」
リエラ「だって、貴方が何かに興味を持ったのを初めて見ましたので・・・!それだけで私、感無量です!」
バラン「お前の期待を裏切るだけだと思うが?」
リエラ「いえ、きっとそうなりません。私にも貴方にも、得となる。そう思います。」
バラン「・・・全く、何処までも物好きな奴め。そうと決まれば今すぐにでも行って来る。期待はするなよ。」
リエラ「はい、行ってらっしゃい。バランさん。帰って来たら、必ず報告下さいね。」
バラン「・・・あぁ。」



そうしてバランは「道」を通り、早々と地球へと旅立って行った。
リエラは空を見上げ、ただ一人孤独に怪獣界を去る彼を見送る。



リエラ「・・・バランさん。私は待っていますよ、いつまでも。なのでどうか、答えを見つけて下さい・・・」






ビオランテ「・・・あやつ、地球に行きよったか。リエラと約束したからには、必ず果たすのじゃぞ。」



そして、キング・リエラに次いでバランと交流を持っていたビオランテもまた、バランの旅立ちを密やかに見送っていた。
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