Novel No.1

□続きのアス×ミア
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…―――夜中近く、ホテルのロビーにふらりと現われた一人の少女がいた。


その少女はフロントで、自らをラクス・クラインと名乗った。
そうして、ある人物が宿泊している部屋のスペアカードキーを受け取ると、桃色の長い髪を翻し目的の部屋へと向かった。





先程ホテルのフロントでラクス・クラインと名乗った少女――ミーア・キャンベルは、目的の人物の部屋の前に立ち、扉に掛かっているロックを解除すると静かにそれを開けた。


すると廊下の常夜灯が照らす先の大きなベッドの上に、この部屋の宿泊主と思しき横になった人影が見える。
寝ている人物を起こさないよう、ミーアは足音を忍ばせ暗い室内に入った。

聞き耳を立てると、部屋主のものと思われる規則的な寝息が聞こえている。

彼女は暗闇に目が慣れると、寝入っている人物を確認するかのようにそっと傍へ回り込む。
そして身につけていた服を脱ぎ去り、ピンクのベビードール姿になるとするりとベッドに潜り込んだ。


ベッドの軋みとシーツの衣擦れの音に注意を払いながら、寝ている人物に静かに近寄った。
体温を直に感じる程身体を近付けて、ミーアはじっとその人物の顔を見る。
その人物の名は、アスラン・ザラ。



先日、議長の計らいでザフト軍に復隊し、復帰早々新造艦ミネルバへ特務隊フェイスとして着任した、先の大戦の英雄。

そして、歌姫ラクス・クラインの婚約者――。
その事実がミーアの心を踊らせる。


今日の夕刻、彼と夕食を供にした時にも感じた、妙な親近感と興奮。


彼とは今までに幾度か顔を合わせ話もしたが、プラントではラクス・クラインに次ぐ有名人の彼をこんなに間近に、しかもプライベートな一面を見たのは初めてだった。
寝息が顔を掠める度に、ミーアの心臓はドキンと跳ねる。


加えて男にしては美しく整った顔立ちに暫らく見惚れていたミーアだったが、ふとここにきた訳を思い出し我に返ると声を掛けた。


「…アスラン…、起きて。アスラン、…」

しかし呼ばれた当の本人は一向に起きる気配がない。
起きないのも、無理なかった。

ユニウスセブンの地球落下事件の後、揺れ動く世界情勢の中で地球軍による一方的な宣戦布告と、同時に同軍によって行なわれたプラントへの核攻撃で、遂に開戦という最悪の事態に陥った。
そして、先日のザフト軍によるガルナハン基地解放作戦が無事成功し、作戦の前線指揮を一任していたアスランは連日に及ぶ緊張と疲れからか、夕食にワインが入ったことも重なり忍び込んだミーアの足音に気付くことなく、熟睡してしまっていた。

「はぁ、つまんないなぁ…」
ミーアは小さくため息を吐いた。
そして、熟睡しているアスランの端正な顔を間近に見ているうちに次第に悪戯心が沸き上がってくる。

自分の髪を少し摘み、アスランの顔を触れるか触れないかの微妙な加減で擽り始める。

熟睡はしていても、やはりくすぐったいのかアスランは整った眉間に皺を寄せ、時折ぴくっと睫毛を震わせている。

余りにも当然なその反応が可笑しくて笑いが込み上げてくるのを堪えながらも、徐々にミーアのイタズラはエスカレートしていく。




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