鋼鉄

□蕾
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それはただの動揺か、
それとも彼なりの照れ隠しなのか。


暖かい風に晒されて小さく芽吹く。




【蕾】




「武術が全く出来ない?」


つらつらと隣で愚痴る男に諸葛瑾は書簡を片付ける手を休めることなく、そう聞き返した。

窓の外からは春の訪れを告げているかのように小鳥のさえずりが聞こえる。こんな職務がなければ散歩にでも行きたくなるような陽気だ。それが何が哀しくてこんな薄暗い空気の漂った室内に閉じこもっていなければならないのか。

そんな諸葛瑾の心も知らず、湯殿での一件以来、やたらと諸葛瑾の部屋に入り浸るようになった男――魯粛は暗い空気を増長させるかのように負のオーラを撒き散していた。

「そうですよ。それだけならまだしも『馬にも乗れない』だなんて、馬鹿にされたものです」

そりゃあ文官ですし、戦に出ていらっしゃる将軍様などから比べれば私の剣の腕などたかが知れたものかもしれませんが。

そう言って魯粛は心外、と言った感じに頬を膨らませた。

よほど悔しかったのか、魯粛にしては珍しいその子供じみた仕草を諸葛瑾は内心少し意外に思ったが、勿論顔には出さない。


「そういう噂が流れてるのかい?」


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