鋼鉄

□銀の影
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「哀れだねぇ」

くっくっくっ、といつもの厭味な笑いが聞こえたのは逃げるように自室に帰った、すぐ後のことだった。

はっとして振り返れば、そこには予想したとおりの人物が佇んでいる。銀色の月明りを背にして立つ、闇の中で生きるその生き物はこんなときばかりその存在を示すかのように回廊にはっきりとした影を落としながら、静かに魯粛の部屋の中へと入ってきた。

「趙、雲――」

半ば呆然と、その人の名前を呟けば、その人――趙雲はちょっと意外そうに片眉を跳ね上げた。と、思えばすっと、腕が伸ばされて、その手が頬に触れてくる。
いきなりの行動についていくことができず、その手を受け入れた魯粛は思いのほか優しいその手つきに内心の動揺を隠せなかった。

哀れ、という先程の言葉を推測するに彼は自分と孔明のやり取りを見ていて、尚且つとそれをおちょくりにきたのだとばかり思っていたのだが。

ぐい、とそのまま乱暴に目の下を擦られ、魯粛は思わず声を上げた。

「ちょ…っ」

「何、泣いてるのさ」








「え…、?」

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