蒼穹

□岐路
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「荀イク」



焦れて名を呼べば、一瞬、目が合った。合った気がした。
しかしいつの間にか探り合うことすらなくなった目は、直ぐに逸らされる。代わりにいつもその内面を穏やかな笑みで覆い隠して見せなかった筈のその男の顔は僅かに歪んでいた。

浮かんでいたのは諦念か、怒りか

曹操には読み取ることも、確かめることも出来ない。




――変わらずに、

そう望んでいたのは自分だけではない筈だ。

なのに、どうしてこうなった…?







視界の先で荀イクの小さい背が白い回廊に漂う霧の向こうに霞んだ。

迷い、迷った挙句、曹操はその姿が完全に霧の中へと消え去るより前に、先に一歩踏み出す。

もう振り向かない代わりに僅かの間瞑目すれば、瞼の裏に焼き付いて離れなくなった残像が曹操をその場に縛り付けた。








――それはいつまでも汚れずに澄んだまま、目に痛いほど鮮やかに焼き付いて――

end.
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