蒼穹

□岐路
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「此処でお別れです」



男が自分の帰り道はこちらだから、とでも言うように、あまりに普通にそれを言い放ったせいで、曹操は一瞬振り返るのが遅れてしまった。

振り返った足下には延々と足跡が続いている。真っ白な回廊の床にこびりつく泥や血の混じったその足跡が今迄の道程が如何に重いものであったのかを語っていた。


そしてその足跡の途中に、曹操自らに『我が子房』とまで言わしめたその男は立ち尽くしていた。顔には曹操の記憶に違わない穏やかな、しかし決して他人に内情を覗かせぬいつもの笑みを浮かべている。


思わずどうした、と問い掛けた。


曹操には彼が歩みを止める理由は分かれど、そうまでして歩みを止める意味までは理解出来なかった。否、本当は嫌になるほど分かっている。

しかしそれでも、

曹操は早く来いと手を差し延べた。あまり立ち止まっている暇は曹操にはない。

しかし男は横に首を振るだけで一向にそこから動く気配を見せなかった。もうそちらには行けないのだと言うように。

曹操は困って立ち尽くす。足跡を辿って戻ることは出来ない。また共に歩むには彼がこちらに歩いてくる他に方法はないのだ。

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