鋼鉄

□陽光
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大地の焦げる臭い、漂う腐臭。

新たに芽吹いたのかそれともそれだけが生き残り取り残されてしまったのか、たった一つ小さな花の蕾だけが視界の先で鮮やかに揺れる。

瞼の裏に焼き付くその光景はいつも白と黒とでしかなかったのに、その花だけはやけに輝いて見えた。



【陽光】



「我が師!」

明るい声が響いた。
きっと顔にはふわりと、あの幸せそうな笑みが浮かんでいるのだろう。

見なくても想像がついてしまった孔明は無意識のうちに微かに口元を緩める。

振り替えると予想通り、陸遜が飛び跳ねる勢いでこちらに走って来ていた。

「どうしたのです?」

いきなりのことに少々よろけながらも、そのままの勢いで飛び付いて来たまだ小さい身体を受け止め、ゆっくりと問い掛けてやれば陸遜はようやく我に返ったらしい。慌てて孔明の身体から離れた。

「す、すみません!飛び付いたりしてしまって…」

興奮が冷め止まぬのか肩が忙しく上下する。それとは別に顔は耳まで真っ赤だった。

「良いのです陸遜。それよりどうしたのです?」

微笑ましいその様子にふわりと笑みを浮かべながら、ふとその笑みが心底穏やかなものになっていることに気付いて、孔明は直ぐに自分を嘲笑した。

「あちらに咲いている花が。どうしても、見せたくて…」

花を手折らなかったのは以前、同じような理由で手折ってきた花が枯れてしまったことが哀しかったからか。

袖を引かれて、つられるように一歩踏み出した。自分が手を引いているのか、引かれているのか、最近よく分からなくなる。

陸遜の笑顔が視界の先でやけに鮮やかに揺れた。









笑わないで
笑わないで下さい

痛いほど焼き付いて
離れなくなるから

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