鋼鉄

□彷徨
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生前の姿を表すかのように、夕日に赤く染まった墓石は酷く綺麗に目に映る。しかし以前と違って、それが魯粛の心を満たすことは既になかった。

「今の我が君は確かにお綺麗ですけどね周瑜殿。やはり貴方と比べるべくもないんですよ」

墓前に立つと、虚しさが一層増した。その虚しさを誤魔化すかのように魯粛は一人口を開く。





――呉は変わりましたね


先日、そううっかり諸葛瑾に洩らして、「これから変わって行くんだろう」と返された時には、流石に彼らとの違いを、呉の未来にたいして興味を抱いていない自分を、認めざるを得なかった。

「…貴方の手から呉の未来を託された者の言う台詞ではありませんが…」

そんな自分に罪悪感を感じて、こうしていなくなった人の墓なども訪れてみたのだが、やはり墓は墓でしかないことを、こうして嫌になるほど思い知らされた。





「私を置いて逝く、貴方がいけないんです」





弁明なのか、それとも謝罪なのか



上手く分からないまま口にした言葉は誰にも拾われることはなく、ただ暮れかけた赤い空の風に流されて消えた。






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