鋼鉄

□春風
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暖かい日差し。

穏やかな貴方の笑顔の先に、ふと浮かんだ感慨。

――貴方は孔明様と違って親しみやすいのです。

どんな顔をして貴方はそれを飲み下すのだろう。

この穏やかな時をわざわざ壊すのはあまりにも忍びない。くだらない自身の本音など口にするつもりは毛頭ないが。



「い〜い天気だねぇ、あんたも散歩かい?魯粛サン」

「散歩、というよりは日光浴、といった感じでしょうね。こうして座っているだけで歩いてはおりませんから」


晴れやかな蒼に新緑が眩しい。まだ少し肌寒い風の吹く今日の気温は陽だまりで日光浴するには最適としか言いようがなかった。

執務室を出てすぐ、風は当たらぬが日差しは心地よい朱塗りの柱の影を陣取った魯粛は今日の午前中を日光浴に費やすことを既に決めていた。

日中は日が出ているため室内でも暖かいし、日が暮れてしまえばこんなふうに日の光を浴びることは出来ない。室内で執務をするには寒い午前中はまさに魯粛に日光浴をさせるのに充分な条件を満たしていた。


「やっぱりまだ少し寒いねぇ」


吐く息はまだ微かに白い。そこに通りかかった諸葛瑾はそう言って魯粛の隣に腰を下ろした。ちなみにそこは寒がりな魯粛にとってはお気に入りの場所である。


「その少し寒いぐらいが丁度好い、そうは思いませんか?」


時折首筋を掠める冷たい風に肩を竦めながら、冷たくなった指先に息を吹きかける。そうやって暫く動かずにいるとじんわりと身体が温かくなってくる。

同意を求めるように、そう隣の影に見上げながら問えば、諸葛瑾は「粋なことを言うねぇ」と片眉を跳ね上げた。

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