鋼鉄

□トレモロ
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見上げる夜空は満点の星空
身体を包む夜風は相変わらず冷たいが、こんなに幸福なことはない。

身体に感じる温かい温もりにこれ以上ない至福を感じながら、魯粛はゆっくりと目を閉じた。








【トレモロ】






「あ、あの、孔明様…」

息を潜めるかのように静かな竹林の中。そこにある孔明の庵へ夜中、秘密裏に訪れた魯粛はとある一大決心をしていた。

「どうしたのです、魯粛」

震える声に気付いたのか、孔明が振り返る。銀色の月。冷たい月明りがしなやかな孔明の白銀の髪を彩る。目はいつも淡々とした色を湛えていて、強く揺るぎない。美しいのに何処か冷たい。

――この人にも本当に体温があるのだろうか

一度でいいから触れてみたい。触れて確かめてみたい。ずっと思っていたことだった。

いつも邪魔立てする趙雲は何か命じられているのか見当たらないし、いつも突然この孔明の庵に訪ねてくる陸遜は今夜は六駿のメンバーで酒盛りをすると言っていたから来られない。邪魔が入ってはいけないのだ、今しかない。

「そ、その…、あの、えっと…」

しかし恥ずかしさからか、いざとなると声が出て来ない。当たり前だ。

認めてほしい孔明から嫌われたり、軽蔑の目で見られるかもしれないことは魯粛にとって一番恐れるべき事柄だった。何かそのような流れがあるならともかく、会いに来ていきなり『触れさせて下さい』なんて言ったら軽蔑されるどころか軽く変態である。言える筈がない。

「あ…、その、今日は…、よ、良い月ですね」

「?、そうですね…。大気が冷たいせいかとてもよく見えます」

激しい逡巡の後、結局口にされたいつもと変わりない言葉に魯粛は激しく肩を落とす。一縷の望みを掛けて、孔明が気付いてはくれないかと言外に視線を送るが、自分が話題を振った為に月を見上げてしまった孔明がそれに気付くことはなかった。

「そうですね…今宵は月がとても綺麗です。しかしこうも晴れていると、私はやはり、月よりも星が気になってしまいます…」

「そうなのですか…?」


「どうしても、行く先を案じてしまうのです…。臆病なのですよ、私も。……今宵の貴方のように」


「っ!」

しかし、振り返ることなく告げられた最後の一言に、心臓が一気に跳ね上がった。

気付いてくれた…、いや気付かれている。一体何処まで。


無意識のうちに一歩、後退っていた。一瞬で見抜いてしまった彼を素直に凄い、と思う反面、恥ずかしさのあまり逃げ出したくなる。

「今宵の貴方は、とても淋しそうな目をしている。一体、どうしたと言うのです…。言ってご覧なさい、魯粛…」

「っ、孔明、様…」

孔明が振り返った瞬間、魯粛は動けなくなった。孔明の瞳が深い色を湛えて、真っ直ぐ絡めとるように魯粛を捕らえる。

孔明の白くしなやかな指が魯粛の顔の輪郭をなぞった。さぁ、と耳元で囁かれて魯粛は思わずぎゅっと目を瞑る。

本音を告白する羞恥、とかいうより前に、今の状況以上緊張する事柄などもうないように思えて、魯粛は半ば無意識のうちにその願望を口にしていた。




「ひ…、ひ…ざまくら、して下さいっ」














+++++++++++

珍しく甘々な孔魯。(ありえない)

たまには攻めな米とそれにどきまぎするちょっとお馬鹿なろしくが書きたかったんです。(出来てない)魯粛は陸遜の膝枕見て自分もされたいとか思ってるといい。

何はともあれお付き合い頂き感謝です!


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