鋼鉄

□温もり
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真っ青な空に向かって弓を穿つ。
目を必死に開いて見続けなければ標的に当たることは決してない。眩しい太陽を出来るだけ直視しないようにしながら弓を番えれば、視線の先に小さく飛ぶ鳥が見えた。

空を飛ぶ鳥を、その弓に当てられるようになったのはいつからだったか。黄祖に拾われ臣下になってから毎日欠かさず鍛練を積み重ねた結果だ。

休みなく動くそれを射止める為にはその動きを予測して矢を放たなければならない。

目を閉じず
動きを予測し

鍛えた感覚を頼りに指先を放せば、矢は真っ直ぐ空に込まれて――、




「無駄な殺生を、働いたな…」

いつものように矢を放ち鳥を撃ち落とした甘寧はそのまま暫く空を見上げていた。昼時にこっそりと邸を抜け出してきて、この街外れの高台に来た。全く誰にも告げて来なかったからもしかしたら今頃誰か探しているかもしれない。

凌統などは、特に。

まだどちらかというと幼さの残る、己を仇敵とするあの少年は自分が思っていたよりも強く、逞しいと分かった。彼が経験したことから「陸遜を許してほしい」と、言われたのはつい先日のことだ。


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