鋼鉄

□温もり
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しかも、今は敵であった己のことを一番気にかけて心配してくれている。大した奴だ、と素直にそう思う。
しかしそうやって貰って、己の内に刻み込まれた悲しみが少しでも癒えるかと言えば、それはまた別の話だが…。

「………」

帰らなければ、と思いながらも足が動かなかった。青かった空もいつの間にか茜色に染まってしまっている。

――帰らなければ…、

あの小さい元仇敵は揃って夕餉を取らないと心配するだろう。しかし思えば思うほど、足は長く伸びた己の影に絡めとられたように動かなくなる。甘寧はそこで自分が目の辺りに力を入れてしまっていることに気付いて自嘲の笑みを漏らした。こんな顔をして帰れば、それこそ心配をかけてしまう。夕餉どころではなくなってしまうだろう。

(…帰れる筈がないか)

何より今の自分を誰かに見られたくなかった。
どうしようかとどうにもならないことを考えて、答えがないことを知りながら赤く染まった空をまた懲りもせず見上げる。

しかしそこにふと、小さな鳥の群れを見つけて目を細めた。良く見ればその群れは遥か上空でずっと一ヵ所を旋回している。


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