鋼鉄
□滲む背中
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「あ、お帰りなさい」
呉の食事は当番制で回ってくる。
今日は雨が降っていた。朝から嫌な天気だと呟いたのは彼だった筈なのに、昼餉の食料を買いに出たその人は何故かずぶ濡れになって帰って来た。
朝にそれを見送っていた呂蒙は確か傘を持って出掛けた筈なのに、と首を傾げる。
「どうしたんです?太史慈」
取りあえず濡れた服をどうにかしようと乾いた布を彼の元へと持って行けば、聞かれた太史慈は少し困った、というように眉を寄せて、それまで大事に抱え持っていたものをそっと腕を広げて見せた。
「犬、ですか…」
対して呂蒙は太い腕の中から覗いたその生き物に、というよりそれが赤い色に染まっていたということに驚いた。
太史慈の腕の中でぐったりと横たわるその犬は、鼻先を血で汚し、一目で折れていると分かる足をヒクヒクと痙攣させながら雨の寒さに震えていた。
【滲む背中】
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