鋼鉄
□滲む背中
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彼は自分とは違って厳しいものの見方の出来る人である。
少なくとも呂蒙はそう太史慈のことを思っていた。
それは優しさがない、とか決して冷たいとかいうわけではない。ただ状況を判断して、時には冷静な判断も下せる人だと。甘さには流されない人だと、そういう意味だ。
太史慈が怪我をした犬を拾ってきて三日経った。
あの状況で「その犬を昼餉にするんですか?」などといういつものボケが出来る筈もなかった。ただ、瀕死と思われる犬に近寄って怪我の手当てを施した。
馬車に轢かれたらしい、と太史慈は言っていた。雨に打たれ震えるそれを見捨てることが出来なかったのだろう。
不器用だが優しい彼らしい、と思った、いつもなら。
犬の世話は自然と呂蒙の仕事になった。
最初は太史慈がやっていたのだが、怪我をした犬に彼の看病は些か乱暴すぎたのだ。太史慈本人にそんな気は全くなく彼自身は丁寧にしているつもりだったのだろうが、呂蒙からしてみれば大雑把な彼の扱いは細かさに欠けて、乱暴以外の何ものにも見えなかった。
放っておけなくて、手を出した。しかし手を出してしまってから後悔した。
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