鋼鉄
□駒はその為のものだから
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おさなごのゆめ
壱
柿も、梨も林檎も、無花果さえも、
寸分違わぬものを口にしているにも拘らず、どれも求めている甘味とは何処か異なっていると気付いた時、諸葛亮はそれら一切を口にするのをやめた。
記憶の中に確かに残る匂いも味も、あの愛おしい郷里なしには得ることは出来ないのだと、思い知るのは余りにも辛かった。
――しかし、もう限界かもしれない
此処に来てそんなことを思う。
「、」
身を掠めた仄かに寒さを残した風にふと、顔を上げた諸葛亮はその中に漂って鼻腔を掠めた馨しい花の匂いに思わず眉を顰める。
日の当たらない執務室の中で唯一、外界との接触の役割を果たしている窓。
そこから四角に切り取られた風景の中には、宮中には相応しいのであろう見事な花々が一面広がっている。
暖かい春の陽ざしの中で、馨しい花の匂いだけがやたら諸葛亮の鼻腔を刺激し、その神経を蝕んだ。
「…まったく」
自然と口元に浮かぶのは自嘲。
蜀の民がどんなに苦しもうと、目的の為に前に進もうと決めたのは自分だった。愛しいものがどんなに悩み、苦しみ、自分を恨もうと、その先の結末を信じようと決意したのは自分だった、はずだった。愛しいひとと、道を違えようと、彼のいるこの世界を守ろうと決めたのは
だというのに、
「情けないですね」
埋めても埋めても
おさなごの夢が 行く手を塞ぐ。
いっそ、心がなくなってしまえば、楽なのに
「あにうえ、」
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本当は、ほんとうはただあの頃に帰りたいだけだったんです。
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