鋼鉄
□ゆめうつつ
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「どうしたのです、筆が止まっておりますよ?兄上」
背中が温かい。
泣きたくなるほどに。
どうした、はこちらの科白だ何故此処にいる、そう思いはしたが問うことは出来なかった。
問えば何もかも消えてしまう、何の根拠もないのにそうだと確信できた。心地の良い夢が唐突に終わりを告げるのと、同じように。
問いには答えず、諸葛瑾は笑みを零す。都合の良い夢でもかまわない、少しでも長く彼を感じていたかった。
「昔を、思い出すね。お前は寒いのが苦手だったっけ」
「そう言っては兄上に張り付いていましたね、懐かしい…」
それよりも最近体温を感じたこともあったはずだが、それは決して口にはしなかった。
決別を覚悟して放した手だ。
彼から振り払われた手だ。
口にしたとて、もう戻れはしないのだから。
実はあれは嘘だったんです。いや、真実には変わりないけれど、兄上に触れるためのただの口実だった。
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