鋼鉄
□ゆめうつつ
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気付いていたでしょうが。
そう言って、くすり、と孔明が耳元で笑ったのが聞こえた。
「そうやって事在る毎にひっついて来るんだから、気づかないわけがない」
「ふふ、でしょうね」
「茶に薬盛られたこともあったっけ」
「飢えていたんですね」
「笑い事じゃないよ、まったく」
あんなきれいな顔してやることはやるもんだ、と、当時は恐怖さえ覚えたのだから。
思わず、溜め息と一緒にポロリと、本音を零すと孔明はさしてそうは思っていなそうな顔でおや、と言った。
「心外ですね。感謝される覚えはあれど、怖がられる謂れはありません」
「……………」
白々しい態度で、こちらのことなどお見通しだと。
そう言い切るのだから、まったく本当に、適わない。
『どうせ後悔をするのなら、
その後悔の少ないほうを選べばいい』
そう、偉そうに語っていたのは誰であったか。
では、
そのどちらを選んでも同じくらい後悔すると分かっていたときは
一体どうすればよかったのだ。
「…ごめんねぇ」
いつものように発したつもりであったその声は、しかし平生と違って少しだけ震えていた。
「何を仰います、兄上」
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