鋼鉄
□ゆめうつつ
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気付いているのかいないのか、いや気付いていない筈がないだろうこの孔明という弟は。
それでも全く素知らぬふりで腕の力が込められたことに少しだけ感謝する。決して口にはしないけれど。
「世界を愛しちまったなんてぬかしたくせに、ね。…分からないんだよ」
陸遜のように狂っていく孔明を止めたかったのか、
ただこうしていつまでも傍に居たかったのか
全てが終わってしまった今でも。
自嘲するように呟けば、孔明が微かに息を呑んだのが分かった。続いて、溜め息。
しかし、なんだ、と上げかけた声は、孔明が肩口に頭を埋めてきたせいで喉の奥で引っ掛かって止まってしまった。伝わってくる身体の震えに一瞬、泣いているのかと思った。
しかし、
孔明が笑う。
「気持ちだけで充分ですよ、瑾」
それは、いつも見ていた温かさのない冷笑などではなく、ひどく温かい人間味のある笑み。
「私は、幸せです。幸せだと、言えるようになりましたから」
少なくとも、諸葛瑾にはそう感じられた。
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