鋼鉄

□ゆめうつつ
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「…都合のいい夢だね」


ふわりと、細い糸に引かれるように意識が戻ったのは、部屋にただ一つぽつりと燈っていた燭台の灯が風にあおられて消えたせいだった。

書簡に埋もれるようにしていつの間にか眠っていたらしい。苦笑しながらふと顔を上げれば、昼間、陸遜が見舞いと称して置いていった芍薬の花が目に入る。


孔明が、好きだと言っていた花だった。


本当だったかどうかは先程見た夢同様、分からなかったが。
自分より若くして時を止めた彼は、もう一生、年を取ることはない。きっとこの胸を焼く痛みも薄れることなどないのだろう。



「ずっと綺麗なまま、か…」


そっと唇から零れ落ちた言葉は、誰の耳に届くわけでもなく風にあおられて夜の闇に静かに溶けた。













end.
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