鋼鉄

□白黒
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「劉備さま」



思わず呼び止めたのは一瞬、揺れる色彩に呑まれるような気がしたからか。
今の自分には、それは酷く恐ろしいことのように感じられた。

数歩先で彼が振り向く。その顔はやはり笑顔だった。

「どうしたの孔明?早くおいでよ」

怪訝な顔ひとつしないで手を差し延べてくる。

随分と簡単に言ってくれるものだ、と思う。一歩踏み出すごとにこの足は宿命の重圧に耐え兼ねて引き潰されそうだというのに。





ゆらゆら、ゆら…





視界が、揺れる。
色を失ったのはいつからだったか。未練の形か、その奥に別国の兄の姿が滲んだ。

らしくない自分を嘲笑し、それを隠すように口許で扇を微かに揺らす。一緒に切れてしまえばいいと願いながら、ゆっくりと目を閉じ、色彩を断ち切った。



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