鋼鉄
□宵の城
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「ナニ?また孔明様に、相手にもされない恋文かい?」
殆ど確信から出た言葉だった。
魯粛が後ろ手に隠したものは紙だ。漂う墨の匂いからして先程まで手紙をしたためていたことは疑いようがない。
この時代、竹簡や木簡などと違って紙は非常に貴重なものである。そうして彼が失礼がないよう貴重な紙を使ってまでして文を出す相手を趙雲は一人しか知らなかった。
彼はムッとして言い返してくるだろう。不機嫌そうに眉を寄せて、ほんの少し慌てたようにこう言うのだ。「あ、貴方には関係ないでしょう…!」と。
趙雲にはそれが目に浮かぶように分かった。そうしてそこから“防壁”が崩れていくのだ。
「貴方には関係ないことです」
しかし、
趙雲のその予想に反して、返ってきたのはあまりに冷たく落ち着いた、“防壁”を纏ったままの彼の声色だった。
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